鳥かご

鳥かごの中の小さな君を眺めて 僕は
ゆっくりと静かに過ぎる時間を縫って
孤独というかごの中にいた

右手を握って急に君は
走って 僕を連れ出した
「素敵な場所を見つけた」って
はしゃぐ背中 追いかけた

首にかけた方位磁石も
折りたたんだ地図も忘れ
道のない道 草かき分け
進む背中 追いかけた

何にも感じない心に
いつからか飼いならされてた

やがて君の細い腕には
無数の傷が刻まれて
それでも 笑顔で「あと少し」って
僕の手を離さなかった

焦りだしたのか僕の胸は
苦しくなって 景色がぼやけて
しまいにはすっ転んで
傷だらけになってしまった

笑いながら差し伸べた その手
柔らかくて
懐かしくて
何かが崩れていった

冷たい胸の奥が
ゆっくり ゆっくり 溶けだして
暖かさを増してゆく
恐くなって手を握れなかった

振り返って 進む君の姿
キョトンと僕は見つめて
見えなくなって しまいそうになって
夢中になって 追いかけた

何で君について行くかなんて
考え出したが 立ち止まれなくて
しまいには 前に立って
草をかき分け 進んでいった

どれほど泥だらけになろうが
どうでもよくなってた

「さぁ着いたよ」って
見ると僕の部屋で
「冗談はよしてくれよ」って
僕は君のほう向いた

「あの子もずっと外を見続けてたんだよ」って
部屋の鳥かごを 指差した

少し前の僕の姿が
フラッシュバックして
手にとって 窓を開け 放した

朝日が昇る空に
ゆっくり ゆっくりと 消えてゆく
心が光で満ちて きらりと 涙がこぼれた
優しい笑い声が 響き渡っていた

右手を握って 急に僕は
走って君を連れ出した
「素敵な場所をもっと見たい」って
はしゃぐ背中を 見る君

「私にできるのはここまでよ
あとはあなたが連れてってくれる」と
はしゃぐ背中 追いかけた